細胞評価系(神経系)

当社は、3次元培養技術と細胞デバイスの特長を活かした細胞・組織の機能試験法の開発に取り組んでいます。特に、標的の細胞・組織が生体内で果たしている機能(例:神経伝達、筋の収縮等)を、細胞が生きた状態で定量的に評価することができる高次の機能試験によって、従来の試験法では得られない価値を提供します。これらによって、基礎研究、創薬、再生医療、化粧品といった幅広い分野への貢献を目指しています。自社での創薬研究への活用に加えて、これら技術に関する共同研究や受託試験を承っております。

ヒトiPS細胞由来シュワン細胞

当社で樹立したヒトiPS細胞由来シュワン細胞を用いて受託試験・共同研究を行っています。健常者由来iPS細胞から作製したシュワン細胞に加えて、シャルコー・マリー・トゥース病 1A(CMT1A)患者由来iPS細胞から作製したシュワン細胞も使用することができます。

特徴
・高い成熟性を示すシュワン細胞
・MBP(ミエリン形成タンパク質)を高く発現
・NGF(神経成長因子)を産生

主な用途
・シュワン細胞の発生と生理学研究
・末梢神経障害・損傷に対する化合物の薬効薬理評価
・神経細胞との共培養
・CMT1A・その他の末梢神経障害の疾患モデリング

図6 当社で作製ヒトiPS細胞株由来シュワン細胞

配向性ファイバー足場を用いた細胞の多層化

緻密に配向制御したファイバーシートを足場に用いて細胞を培養することで、細胞がファイバーの方向に沿って整列した多層の細胞シートを作ることができます。例えば、神経細胞を用いた場合、ファイバーシートの上下に細胞が積み重なった50~100 μmの厚みを持つ細胞シートが得られます。当社技術を用いて作製した多層構造の神経細胞シートには、① 3次元構造の高密度培養により成熟化が促進される、② 足場への良好な接着により細胞の凝集を抑制して長期間安定的に培養できる等、2次元培養と比べて優れた特長があります。

(a)配向性ファイバー足場による配向制御

      (b)神経細胞の多層化

図7 配向性ファイバーシートを用いた3次元培養

細胞デバイス

当社は、細胞や組織の培養および機能評価のための用具や容器を独自に開発・製造しています。例えば、先に述べたような配向性ファイバー足場や多層化した細胞シートはごく薄く柔らかいため、ピンセット等で取り扱うのには不向きです。また、観察・計測に用いられる装置によっては一般的な培養容器とは異なる専用の測定プローブが用いられることもありますが、このような場合、装置専用の測定プローブを用いて細胞培養を行う必要があり、汎用性やコストの問題が生じます。
これらの課題を解決するものとして、当社は、各種の培養容器や測定装置の間の移動を自在に行えるような小型の細胞培養容器を開発しました。さらに、その容器自体に細胞の機能評価に適した構造上の工夫を施しています。例えば、細胞の多層化を行うには、配向性ファイバーシートを96ウェルプレートに収まるような小型のフレームに保持させた配向性ファイバーデバイスが適しています。配向性ファイバーシートによる神経細胞培養デバイス(SCAD デバイス)は、米国特許権を取得しています(特許番号:US 11,543,404)。
細胞の培養と評価の機能を兼ね備え、細胞チップ/組織チップへの拡大も可能なことから、当社はこれらを「細胞デバイス」と名付けました。微細加工やプラスチック成形の技術を基盤として、素材の選択から形状のデザインまで社内で実施する能力を備えており、目的や対象に応じて柔軟に設計・試作を行うことができます。

(a)ファイバーデバイスの例

    (b)ファイバーデバイスの断面図

図8 当社が開発したファイバーデバイス

神経細胞デバイスを活用した電気生理学的特性の評価

神経細胞の役割は電気的な信号の出力と伝達にあることから、神経細胞の機能の異常やその回復を評価するには、神経における電気活動の異常やその抑制・回復を電気生理学的に測定することが重要です。近年注目を浴びているin vitro電気生理試験法の一つに多電極アレイ(Multi-Electrode Array;MEA)を用いた細胞外電位の計測があります。
MEAには微小電極がアレイ状に配置されており、細胞集団の細胞外電位を同時かつ連続的に観測することができるため、神経ネットワーク活動の評価に適しています。しかし、iPS細胞から分化誘導した神経細胞を用いる場合、神経ネットワークの形成に長期間の培養期間を要する上に、培養中に神経細胞が容器から剥がれて凝集してしまうために望みの結果が得られないという問題がしばしば生じます。当社の3次元培養技術を用いて作製した多層構造の神経細胞シートはこれらの問題を解決し、MEAを用いた神経の電気生理学的特性の評価の実用性を大きく高めます。

図9 多電極アレイ測定へのSCAD神経細胞デバイスの活用(3次元培養による早期成熟化)

また、MEAを用いた細胞外電位の計測は、スパイク数、同期バースト発火頻度、同期バースト持続時間等、多数の解析パラメータを与えます。被験物質の作用機序によって影響が生じる解析パラメータが異なるため、神経毒性の有無や神経障害の治療効果を判定するには多次元データの解析が必要です。当社および当社の3次元培養神経デバイスは、主成分分析や階層化クラスタリングによる多次元解析に対応しています。これら神経デバイスを用いた測定法の有用性については、東北工大の鈴木教授との共著で2022年のBiomaterial Researchに掲載されました。

<外部リンク>

「A functional neuron maturation device provides convenient application on microelectrode array for neural network measurement」

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