当社は、3次元培養技術と細胞デバイスの特長を活かした細胞・組織の機能試験法の開発に取り組んでいます。特に、標的の細胞・組織が生体内で果たしている機能(例:神経伝達、筋の収縮等)を、細胞が生きた状態で定量的に評価することができる高次の機能試験によって、従来の試験法では得られない価値を提供します。これらによって、基礎研究、創薬、再生医療、化粧品といった幅広い分野への貢献を目指しています。自社での創薬研究への活用に加えて、これら技術に関する共同研究や受託試験を承っております。
骨格筋収縮性の評価
ヒドロゲルを含む培地中で細胞を培養することで細胞の遊走と配向を制御し、細胞が自己組織化した組織片を作ることができます。特定の培養条件の下、2本の支柱を備えた容器内で骨格筋芽細胞を培養することで、支柱を架橋するような形でミリメーターサイズの骨格筋組織が得られます。得られた骨格筋組織は刺激に応答して収縮し、後に述べる定量的な骨格筋収縮力の評価に最適です。
図10 3次元培養した骨格筋組織が収縮する様子(動画)
骨格筋組織の収縮性の評価
骨格筋はその収縮によって身体を支え動かすという重要な役割を担っています。骨格筋機能の不全を細胞や組織で再現しようとする試みが国内外で行われていますが、2次元培養では生体内の筋管細胞の特性(分化、配向性構造等)を十分に再現できない上、遺伝子・タンパク質の発現量や組織サイズの計測から骨格筋の収縮力を予測するのは容易ではないという問題があります。
当社の技術を用いて作製した3次元構造の骨格筋組織片は電気刺激に応答して収縮し、その収縮力を定量的に評価することが可能です。さらに、当社は、骨格筋組織片の培養と収縮力の評価を同時に行うことができる機能的な骨格筋デバイスを開発しました。例えば、マウス筋芽細胞であるC2C12細胞から作製した骨格筋デバイスを用いることで、デキサメタゾン(DEX)添加による筋収縮力の低下がIGF-1の添加によって回復することを簡便なin vitro試験で短期間かつ高感度で評価することができます。
図11 SCAD骨格筋収縮性評価デバイスのイメージ図
(a)薬剤添加48h後の収縮変位
(b)収縮変位の経時的変化
図12 SCAD骨格筋収縮性評価デバイスを用いたデータ取得例①
骨格筋へ作用する化合物の効果を検証する上で、ヒト細胞を用いた評価系は重要になります。当社では、ヒトの骨格筋細胞を用いた収縮性評価系の構築にも成功しており、IGF-1や試薬A(非公開)の添加によって筋収縮力が増加することを確認しています。
図13 SCAD骨格筋収縮性評価デバイスを用いたデータ取得例②
カへキシアモデル
がん悪液質(カへキシア)とは
がんによる影響で低栄養状態に陥り、骨格筋量や体内脂質の低下や衰えをもたらす病態で、がんから起こる炎症や過剰代謝の関与が疑われていますが病因は不明です。治療薬による体重・食欲改善効果はみられますが、筋機能の回復に有効な薬剤は存在しません。筋力の実質的な改善効果が認められる治療薬の開発が望まれています。
カヘキシア疾患モデル
当社は、骨格筋デバイスを活用した治療薬開発として、カヘキシア疾患モデルを開発しております。ヒト及びマウス筋芽細胞由来の骨格筋3次元組織に対してがん細胞の培養上清を添加することで、経時的に収縮変位量が低下する3次元カヘキシア疾患モデルを構築し、収縮変位量を指標とした創薬研究に活用しています。
(a)カヘキシア疾患モデルの概要
(b)収縮変位の経時的変化
図14 SCAD骨格筋収縮性評価デバイスを用いたカヘキシア疾患モデル
神経筋接合部モデルの開発
生体内では、骨格筋は運動神経の支配を受けており、運動神経終末から放出される神経伝達物質を骨格筋上の受容体が受け取ることで筋収縮が引き起こされます。神経と筋肉の接続部を神経筋接合部といいますが、神経筋接合部の障害は筋力の低下や筋委縮を引き起こし、運動機能の低下に加えてさらに重症になると呼吸筋の障害により生命にかかわる事態を生じます。神経筋接合部に関わる代表的な疾患には重症筋無力症がありますが、そのほかにも筋ジストロフィー、筋委縮性側索硬化症(ALS)や加齢性筋肉減少症等の多様な神経筋疾患に関与しているとされています。
図15 神経筋接合部
当社は、神経細胞と骨格筋細胞の3次元培養と機能試験法の技術を活かして、神経筋接合部モデルの開発にも取り組んでいます。生体を模した構造で、運動神経から軸索を伸長させ筋組織と接合させる共培養デバイスです。神経筋接合部に関する基礎研究、運動神経および神経筋接合部に影響を及ぼす化合物の評価や探索などに活用できます。
図16 SCAD神経筋接合部デバイス