近年の技術の発展により、多能性幹細胞から多様な細胞や組織を作ることが可能になりました。当社はこれまでに、シュワン細胞への分化誘導方法の改善と最適化を行って、ヒト多能性幹細胞から効率よく安定した分化誘導に成功しており、これまでは創薬アッセイ用の細胞製品として活用してきました。当社が製造するシュワン細胞による臨床応用の可能性を検討するための動物実験を実施することによって、神経修復に対する安全性や有効性の検証を行い、シュワン細胞を用いる世界初の細胞治療・再生医療の実現を目指して研究開発を進めています。
シュワン細胞とは?
シュワン細胞は末梢神経系の主なグリア細胞で、運動神経と感覚神経の軸索を包み込んで保護し髄鞘を形成します。この髄鞘により電気信号が神経細胞に沿って迅速かつ効率的に伝達されます。さらに、シュワン細胞は神経線維の修復と再生において重要な役割を果たしており、神経線維が損傷するとシュワン細胞が損傷部位に移動し、神経栄養因子を産生することによって修復プロセスが促進されます。
図1 シュワン細胞と神経細胞
ヒト多能性幹細胞由来シュワン細胞
これまで、シュワン細胞は神経の再生に有用であることが知られてはいましたが、安定して製造することは困難とされており、細胞医薬としての実用化はほとんど進展していませんでした。当社では、多能性幹細胞(ES細胞・iPS細胞)からシュワン細胞を効率よく作製することに成功しており、これを用いた細胞医薬の研究開発を進めています。
図2 当社で作製ヒトiPS細胞株由来シュワン細胞
<特徴>
- 高い成熟性
- MBP(ミエリン形成タンパク質)を高発現
- NGF(神経成長因子)を産生
シュワン細胞の細胞医薬
現在、手根管症候群(注1)や脊髄損傷といった神経損傷に対する細胞治療として、シュワン細胞の実用化に向けた研究開発を進めています。
図3 多能性幹細胞由来シュワン細胞による神経損傷の治療
他家移植による事業性確保
当社では、他家移植によって、安定した品質の細胞医薬を迅速に患者様に提供できるよう開発を進めています。また、他家移植にすることによって、量産化技術によるコスト削減効果も期待されます。
図4 他家移植による治療法のメリット
(注1)
手根管症候群:
手首の手のひら側にある手根管という神経と手を曲げる腱が通るトンネル内で、正中神経が圧迫され、しびれや痛みが生じる疾患。初期には人差し指、中指がしびれ、痛みがでますが、最終的には親指から薬指半分(正中神経の支配領域)がしびれます。急性期には、このしびれや痛みは明け方に強く、目を覚ますと手がしびれ、痛みます。治療法としては、消炎鎮痛剤やビタミンB12などの飲み薬、塗布薬、運動や仕事の軽減などやシーネ固定などの局所の安静、腱鞘炎を治めるための手根管内腱鞘内注射などの保存的療法が行われます。難治性の場合などは手術が必要になります。
<外部リンク>日本整形外科学会